妊婦さんと、その家族に知ってもらいたいこと
昨今の医療の進歩により、妊娠中または出産直後からお子さん(赤ちゃん)の重篤な疾患を予防、あるいは治療することが可能となってきました。本日はその一部を紹介したいと思います。
1.RSウイルスワクチン
RSウイルス(アールエスウイルス)はカゼの原因ウイルスとして知られ、赤ちゃん(乳児)から老人まであらゆる年齢の方が感染する極ありふれたウイルスです。しかし生まれて間もない乳児、特に生後3か月未満の乳児が感染すると、呼吸困難や無呼吸を生じ、人工呼吸器が必要となったり、命の危険が及ぶこともあります。
そのためRSウイルスに対するワクチンの開発は以前より行われていましたが、お子さんに直接接種しても効果をあげることが難しく実用化されていませんでした。しかし2024年より、RSウイルスワクチンを妊婦さんに接種することで乳児に対するRSウイルスの重症化を予防できるようになりました。
これは非常に画期的な方法で、小児科医としては積極的に接種すべきと考えますが、なにぶん母体の管理は産婦人科の領域となります。小児科が単独で妊婦さんへの接種を行うことは難しいため、産婦人科の先生と相談していただいて接種するかどうかをご検討いただきたいと思います。
2.三種混合ワクチン(百日咳、ジフテリア、破傷風)
三種混合ワクチンは上記3種類の病気を予防するためのワクチンです。現在は上記3種類に加えポリオとヒブの予防を加えた五種混合ワクチンが乳幼児に接種されています。このワクチンを接種したお子さんへの疾病予防効果は高く、予防接種の効果を実感できるものではありますが、「生後2か月からしか接種できない」ことと、「小学校入学の頃には百日咳に対する予防効果が低い」ことが問題となっています。
ご存知のように2025年は百日咳が流行し、不幸な結果となってしまったお子さんもいらっしゃいます。百日咳を防ぐためには上記の問題点を解決しなければいけません。以前より小学校入学前(年長さんの学年)で三種混合ワクチンの接種が推奨されていましたが、任意接種(有料)のため浸透していませんでした。2025年は百日咳流行の報道により小学生以上のお子さんで三種混合ワクチン接種の希望者が殺到し、三種混合ワクチンが入手できなくなってしまいました。医療資源(薬や予防接種、医療機器、医療者)には当然限りがあり、その供給範囲内で有効に使われていかなければ、ワクチンを接種したくても接種できないという本末転倒な結果となってしまいます。三種混合ワクチンが十分量供給されることが望ましいですが、生産体制を強化してもすぐには実現しないと思われます。
百日咳が重症化するのは、五種混合ワクチンを接種できない生後2か月までのお子さんです。この子たちにこそワクチンの予防効果を享受するべきで、RSウイルスワクチンと同様に妊婦さんへ三種混合ワクチンを接種することで百日咳の予防効果が期待されます。今後三種混合ワクチンの流通が再開した時には、三種混合ワクチンの接種もご検討ください。
3.新生児スクリーニング検査(重症複合型免疫不全、脊髄性筋萎縮症、ライソゾーム病)
現在一般的に行われている新生児マススクリーニング検査(出生数日以内に、かかとの血液で調べる先天代謝異常症の検査)とは別に、上記の疾患を検査できる施設が増えてきました。しかしこの検査は現在は有料で希望者にしか行われていないのが現状です。
重症複合型免疫不全症や脊髄性筋萎縮症は、生後すぐには発症しませんが、生後6か月までには発症し、発症後は死亡する可能性が高い疾患です。ライソゾーム病も代謝異常の病気で重度の障害をきたす疾患です。いずれも難病に指定されている疾患ですが、現在はその診断技術、治療法が確立され、治療可能な疾患となっています。しかし症状が出てからでは治療効果が低いため、症状出現前に治療を開始することが望ましいです。
そのため生後すぐにこの検査を実施し、今後病気が発症する前に対処していくことが推奨されています。
いずれも非常に稀な疾患ではありますが、治療を行うか否かでお子さんの将来が大きく変わってしまいますので、通院されている産婦人科で検査可能であれば是非とも検査を受けていただきたいです。
これからの医療は、発病してからの治療ではなく、発症予防が大切になると思います。
成人病も予防が大切であることが言われていますが、小児科の病気も同様で、感染症だけでなく様々な病気の発症を予防することがお子さんの健やかな成長につながります。
上記のいずれも有料で、決して安価ではありませんが、極力実施していただきたいので紹介しました。





